「……」

尊い、犠牲があった。

『大丈夫。ボクはきっと戻るよ。だから君は逃げて。すぐに後から追いつくから』

小さな体で、小さな背中で、必至に強がりを言って、ユーノは強大な敵に立ち向かった。

『君はここで待ってて、ジェシカ』

そして……

『いやぁ、目を開けて……ユーノさぁん!!!』

彼は帰らなかった。
だがきっと、いや必ず、彼は後悔していないだろう。
愛するジェシカと世界を守り、満足して逝ったのだから。

そして……ジェシカに宿る新たな命も……



                     魔法少年ロジカルユーノ 完




(って、まてぇえええええええええ!!!)

全身真っ黒焦げになったフェレットもどきは心の中で絶叫した。

「感動的なエンディングを壊さないでくれるかな、ユーノ君」

既に普段着に戻っているなのはが心底嫌そうに言う。

(何が感動的なエンディングなんだよ!? なに!? なにそのあからさまな死亡フラグ!? 逝くなよ僕!! っつーかジェシカってだれ!? 僕九歳にして一児の父!?)
「ジェシカ・リクアノール。惑星第三重力圏守備軍第七特殊部隊隊長。テログループ”暁の衝撃”との最初の戦闘でユーノ・スクライアと出会ってその後愛を育み……」
(なにそのついに明かされた衝撃の展開!? 第三重力圏って何!? その厨臭い名前のテログループは何!? っつーか愛なんて育んでないよ!!)
「いいじゃない、別に。主人公な扱いを受けられる機会なんてこれが最後かもよ?」
(余計なお世話だよ!! どうせ第二期OPではちょっと顔が出るくらいの扱いだよ!!!)
「まぁほら、ジュエルシードは封印できたし? 一石二鳥とは行かなかったけど、よかったじゃない」
(もう一羽の鳥はなんだったのか凄く聞きたいな。教えてくれない? ねぇ! ねぇ!! ねぇ!!!?)

黒こげになってるフェレットの命、とはさすがのなのはも言わない。
別に良いよね。次のチャンスもあるし。そうやって納得した。
よろよろと近寄ってくるユーノを無視して、なのはは浮遊しながら光り輝くジュエルシードに近付いていった。
またあんな化け物になられたら笑えない。最後まで手を抜かないのがなのはのスタンスだ。

(……ねえ、あそこで気絶してる犬と飼い主さんは?)
「時間という傷が全てを癒してくれるよ」
(綺麗に言ってるけど、それって放置ってこと?)
「そうとも言う」
(……)

ユーノの冷たい視線などもろともせず、ジュエルシードにレイジングハートを向けた。冷たい視線には慣れている。あんまり自慢できることでもなかったが。
自嘲している間に、先端の水晶体がジュエルシードを吸収し終わった。

『receipt number XVI.』
「ご苦労様」

返答代わりに二度点滅したレイジングハートは、一瞬光って元の宝石に戻った。
呼応してバリアジャケットが霧散し、その下から元の男子制服が現れる。

「やっぱりあの服は落ち着かないな。スカートって足がスースーして好きじゃないし」
(僕からすればその服の方がよっぽど違和感あるけ……どっ!!?)

軽口を叩いたユーノのすぐ傍で土煙が舞った。
ユーノが油の足りないブリキ人形のようにつっかえつっかえ首を動かし音のした場所を見ると、そこには乾燥して堅くなった土に突き刺さっている十円玉。

「ユーノ君、私つまらない冗談ってあんまり好きじゃないんだ」
(……い、以後口を慎みます)
「お願いね。じゃないと私、動物虐待しちゃうかもしれないから」
(は、はは)
「ふふふ」

――――――――――――――――――――――――――――――

「疲れた……体中が痛いし、どこか痣になっちゃったかな?」

体中を堅い毛に覆われてるもの凄い力の犬の化け物と戦うよりも、小学三年生の友達、それも女の子と喧嘩した方がダメージが大きいなんてこの世は腐ってると思う。
あんまりにも一方的すぎて喧嘩ですらなかったけど。
物理法則を職務怠慢で訴えたい。

「アリサちゃんが何か言ってた気がするんだけど……なんだったっけかな?」
(アリサちゃんってあの金髪の娘だよね?)
「そうだよ」
(何かあったの?)
「うーんとね……」

顔を赤くしながら話しかけてきたアリサ、そしていつの間にかいなくなっていたアリサを思い出す。
それで理由をすずかに訊ねたら、見事人間大砲のギネス記録を更新するに至ったのだ。

「私が話を聞いてなかったのが悪いのかな」
(人の話くらい聞こうよ)
「なんで話が聞けなかったかっていうとね、どこかのフェレットもどきがね、頭の中に直接声を叩き込んできたせいなんだ」
(……すみません)

予想外に素直に謝ったので、つま先で蹴飛ばすことは見送った。
しかしアリサ問題は未だに未解決だ。原因不明、現状不明なのだから、解決云々のレベルですらない。

「すずかちゃん、怒ってたしなぁ」

早急に解決しなければこの街に一人殺人者が誕生することになる。
もちろん、警察にばれるなんてそんなへまはしないだろう。
正式に誕生するのは一人の行方不明者だ。数年後、山中で白骨死体になって発見なんていうオチはなんとしても回避しなければならない。

「ユーノ君」
(どうかした?)
「人の位置を探知する魔法って使えるかな」

なのはの問いにユーノは尻尾をぴくりと動かした。

(探知魔法、か。普通の人を探すぐらいなら大丈夫だよ。そういう補助系は一応僕らの一族の得意分野だしね)
「よかった、ちょっと探して欲しい人がいるんだけど」
(さっき言ってたアリサちゃん?)
「うん。まずアリサちゃんに会わないとどうしようもないし」
(ちょっと待って……この前会った時に波長は覚えてるから直ぐに見つかると思う)

背筋を伸ばした格好で集中すること十数秒、ユーノは予想通り簡単にアリサの位置を知ることに成功した。
感覚的に得た距離と方向の情報を、最近得たばかりのこの土地の地図に重ねる。

(なのはが初めて変身した公園の真ん中にいるみたいだ)
「公園、かぁ」

暴走体との戦闘が脳裏に甦る。首と背骨がたてた嫌な音もきちんと甦る。
戦闘に巻き込まれてただでさえテンションの低かったなのはの気分は、たちまちどん底まで低下した。

「……出来ればあそこにはあんまり近寄りたくないんだけど、仕方ないか」

変身、魔法行使という全然嬉しくない初体験をした場所に赴くのは確かに気分がいいものではなかったが、恐怖の余り精神活動が氷結させられるすずかの視線にさらされるよりは百倍マシだ。
というか、あの視線の中にいるのならば弾丸飛び交う中東に突撃するほうがよほど気楽というもの。

「ここからそんなに離れてないし、これから行ってくるよ」
(僕はどうすればいい?)
「……すごく不本意だけど、私の部屋に入ってて」

まったく、至極不本意だった。可能ならば二度と見ることもないような遠くへ行って欲しいものだが、それで二度と巻き込まれないと言う保証は無かった。
二度も戦いに引き込まれたのだ。二度あることは三度ある。
しかし理性では分かっていてもはいそうですかと簡単に妥協できることでもなかった。
心にうずたかくつもった鬱憤を少しでもはらすため、離れつつあったユーノに告げる。

「ユーノ君」
(なに?)
「部屋の中の物触ったら捻り潰すからね」
(……わ、わかりました)

そして通常の三倍で逃げていく小動物。その後ろ姿は、惨めだ。あまりに惨めだ。

「……いこう」

そして同年代の女の子に怯えっぱなしの自分自身が、それを上回る惨めさだった。


――――――――――――――――――――――――――――――


そして忌まわしき公園。
ユーノの魔法は確かに正確だったようで、なのははすぐにベンチに座っているアリサを見つけることが出来た。
近くの自販機で買ったのだろう、両手にはコーンポタージュが収まっていた。
深く俯いているので表情は読めないが、傍目にも落ち込んでいることは一目瞭然だった。

「……アリサちゃん」

なのははできるだけ刺激が少ないように静かに話しかけた。
びくりとアリサの肩が震えて、しばし沈黙。しばらくするとゆっくり顔を上げ始める。

「……なのは?」

その顔を見てなのはは珍しく、本当に珍しく心底驚いた。
綺麗な碧の目は充血して、目の下から頬にかけても真っ赤っか。
泣いて泣いて泣きまくったことを顔全体で表現していた。

これを、私が?

なぜアリサが泣いたかなんてことは微塵もわからなかったが、アリサを傷付けたという漠然とした罪悪感がなのはの胸を締め付けた。
思わず、目をそらす。

「……アリサちゃん、ごめ」


<b>バシャ</b>


「ほえ?」

意味不明の擬音になのはは間抜けな声をあげた。
訳も分からぬままアリサを凝視する。立ち上がった彼女の片手には、口をこちらに向けたコーンポタージュの缶が握られていた。
缶の口からは、ポタポタ黄色い液体が垂れている。

自分の服からも、黄色い液体が垂れている。
それに混じって黄色い粒が落ちてくる。
それで地面に落ちた粒はほかほか湯気なんかたてちゃったりして。

結論。

中身、直撃。


<b>「っぁ――――――――――――――――――――――――――――――っつぁあああああ!!!!!」</b>


現状を把握したとほぼ同時に、理性を破壊せんばかりの高熱がなのはの上半身を襲った。
正確に言えば服に熱が浸透して肌までたどり着いたわけであるが、拷問紛いの行為をリアルタイム体験中のなのはにとってそれはどうでもいい。

とにかく尋常じゃないほど熱かった。

そりゃそうだよ! だって湯気ほっかほかだもん!!

「あつ、あつ、あつつつつつぁあああああ!!!」

某北斗七星にちなんだ拳法を使うマッチョメンの如く叫んだなのはは、辺りを走り回った後、傍にあった噴水に上半身を浸ける。
ただでさえコーンポタージュで濡れていた制服がずぶ濡れにグレードアップしてしまったが、その甲斐あって痛みにも近い熱さは収まった。
と、今度はろくに息も吸わずに顔を浸けたおかげで息が苦しくなってくる。
熱さの低下と共に台頭してきた窒息感に、なのははたまらず上半身を引き上げた。

「っぷはぁ!! ……はぁ、はぁ、はぁ……」

しかし季節はまだ四月の頭。徐々に気温は上昇してきたものの上半身ずぶ濡れでは寒いに決まっていた。
熱さ、苦しさ、寒さの三段攻撃で自分が何をやってるんだかも分からなくなったなのはは、三十秒近くたってようやく思考を取り戻した。

「いきなりなんなの!!?」
「うっさいわね! あんたが酷いこというからでしょ!!」

だからといって出会い頭に躊躇無くコーンポタージュ奇襲攻撃を実行に移す辺り、さすがはアリサといったところか。
大胆不敵な行動力は生来の性格なのか、両親の教育の賜物なのか、人を引っ張っていく立場の人間には必須の能力を、アリサは過不足無く身につけていた。
身をもって体験させられたなのはからすればたまったものではないが。

「下手したら火傷だったよ!? むしろ下手しなくてもデフォルトで火傷だよ!?」
「バカね、缶の中に入れてる時点で温度は80度くらいに下がってるのよ」
「十分火傷するよそれは!!」
「根性で耐えなさいよ情け無いわね!」
「根性でタンパク質の限界強度を超越できたら人類苦労しないよ……」

極々身近に物理法則なら軽く超越している人間が数名いるが、それはそれだ。
なのは自身はきちんと普通の人間をやってるつもりだった。
昨日付けでものの見事に越えてはいけない一線を飛び越えてしまったけれど。

「大体ね!」

アリサがびしっとなのはに人差し指を突きつける。

「あんだけズタボロ言っておいて今更何よ!」

叫ぶアリサの瞳は、再び涙で潤み始めていた。
女の子みたいな顔して女の子の涙に人一倍弱いなのははそんな様子を見て戸惑う。
なにせ全く身に覚えのないことなのだ。問題を理解すればひどく歳不相応に冷静な対応が可能ななのはだが、こうも訳が分からないとお手上げだった。

「えと、な、泣かないで」
「別に泣いてないわよ!」
「でも涙が……」
「これはあれよ……け、けっ……」
「け?」
<b>「結露よ!!」</b>

もの凄い言い訳だった。

「結露って……そんな冬の窓ガラスじゃないんだから」
「一々うるさいわね! もう話しかけるんじゃないわよ!」
「ど、どうして!?」
「どうして!? 自分の胸に手を当てて考えてみればいいじゃない!」

言われるがまま、胸に手を当てて考えてみる。
……
……
……
……うん。

<b>「……寒いね」</b>
「今すぐ死ねっ!!!」

アリサは振り被る動作すら悟られぬ速さで、空き缶となったコーンポタージュの缶を投げつけた。
一体その細い身体のどこから出てきたエネルギーなのか、反射神経に優れるなのはでさえ全く反応できないというアホみたいな速さで缶はアリサの手を放れた。

そしてほぼ同時に着弾。

「へあうっ!?」

カーンッという小気味いい音と共になのはの頭部が後ろにのけぞった。

「っ――、っ――!!!」

声にならない叫びを上げながらおでこを押さえて崩れ落ち、右に左にのたうち回る。
びしょ濡れの制服に土汚れというオプションがついてしまったが、そんなのを気遣っている余裕はなった。
一瞬意識が飛んだのだ。まるで中身が入っているような重量感だった。
運動エネルギーで質量を補完している。まさか数年先に習う理科の知識が役立つとは思わなかった。
ダメージ軽減には一ミクロンも貢献していないところなんかが実に受験教育らしい。

「アリ……っちゃん、強すぎ……だよ」
「さっさと覚え出さないなのはが悪い!」
「そんなこと言ったって……お願いだよアリサちゃん、教えて……何か悪いコトしたなら謝るから……」
「う……」

アリサは揺らいだ。
地面に伏せていて、顔が汚れていて、涙目で、必死そうな表情で訴えてくる。犯罪的な可愛さである。
頬を赤く染めてしまったアリサを責めるのは酷だろう。女性でもこの見えない力働いているとしか思えない可愛さに視線釘付け言葉打ち止め結構毛だらけ猫灰だらけになるのは必至だ。

少女のアリサが少年であるなのはの少女的な可愛さに少女であるにもかかわらず見惚れてしまった、という非常にややこしい構図ができあがった。
何が悪かったか教えちゃって許しちゃっていいかなー的な考えに持って行かれる寸前で、なんとかアリサは持ちこたえる。

(でも……あれは私の口からは言えない)

というより、言いたくない。

いつもよりたくさん勇気を出して誘ってみればあれだった。
誘いを吟味するいとまさえなく頭ごなしに即拒否。最高にぼろくそ言ってくれた。
思い出すだけで底なしに嫌な気持ちになってくる。
こうやってなのはと叫びあっている現在も、それは変わっていなかった。

「やだ。絶対、ぜぇーった言わない!」
「教えてよ!」
「やだ!」
「教えて!!」
「やだぁ!!」
「教えてってば!!!」
「やだやだやだやだ!!! あんたなんか大ッキライ、どっか行っちゃえ!!!」

アリサの怒りにまかせた一言で、場が水を打ったかのように静まった。
頭から冷水をかけられたようにアリサは一瞬でトーンダウンする。
が、なのははアリサのあまりに態度にすっかり表情を消してしまったあとだった。

「分かった。私ももう、アリサちゃんなんか知らない」

普段の感情に富んだ声色からは想像も出来ないほど抑揚のない声で言い捨て、踵を返す。

「あ……」

遠ざかろうとするなのはの背中を見て、アリサの心に悲しさと寂しさが沸き上がった。
教室で断られた(と、本人は思っている)時は怒りが相殺してくれたが、今度はそれもない。
無意識のうちに手が伸びた。

なのはの服のえりに。

「待って!」

<b>ゴキュ</b>

そして奏でられる音色。
丁度歩き出した瞬間すばらしいタイミングで首の根本が固定されて、頸骨に危険なまでの負荷がかかった結果だった。

「お……く……ら……!」

意識が遠のいて、なぜか不思議とあのねばねば野菜の名前が出る。
アリサはそこで初めて自分のミスに気付いた。

「あっ、ごめん!」

手が離れるが、今さら遅い。それどころが泥酔した親父のような足取りで体重が支えられるわけがないので、状況は更に悪化した。
至極普通の流れでなのははバランスを失い、上半身の位置エネルギーは運動エネルギーに変換される。

<b>ガッ</b>

目一杯加速したなのはの頭部は、もはや自然界の作為が感じられるレベルの精度でベンチの角に激突した。

「ひぐぅ!!!」
「な、なのは! 大丈夫!!?」
「……いっそ……のこと……気絶した……い」

母の教育という名の■■によって痛みへの耐性はついていた。だから身体的にどうしようもないところまで追いつめられない限り、滅多に気絶することはない。
そのことが今、全力で裏目に出ている。
しばらく息を止めたままで地面を叩いたり頭を抱えたり患部をぐりぐりしながら痛みを乗り越え、やっとのことで声が出せるようになった。
よろよろ立ち上がり、崩れ落ちるようにベンチに腰掛ける。

「っふぅ、はぁ……急に引っ張らないでよ、もう」
「ご、ごめん……だって、なのはが行っちゃうと思ったから……!」
「さ、さっきどっか行っちゃえって言ったのに?」
「それは……その……」

うつむいて人差し指をつんつんするアリサ。

「売り言葉に買い言葉っていうか、さ」
「売り言葉って、私そんな酷いこと言ったかな」
「……あんた本気で言ってるの!?」

なのはの言い様にアリサは興奮してまくし立てた。

「私が映画に誘ったのにうるさいとかふざけたこと言ってると殺すとか私と一緒に行くなんてあり得ないとか言ったじゃない!!! ……あ」

さっきまで言いたくないと思っていたのに思わず口に出してしまった。
あのときのなのはの何も見ていない目(ユーノと念話していたせいで)を思い出して、あのときの気持ちがよみがえってくる。
しかし当のなのはは身に覚えのない言動にぽかんと口を開けた。

「嘘……ホントに私が言ったの?」
「そ、そうよ」
「そんなひどいこと、私が?」

言ってるはずがない。冗談と本気ぐらい使い分けることが出来るし、欠片も考えたことがなかった。
ただ、どこか頭に引っかかる。アリサに向けてではないが、誰かに似たようなことを言った気が……

「あぁ!!!」

フェレットもどき。別名ユーノ。
会話中もろに割り込んでくる日常生活ジャマー。
そう言えばアリサと会話していたときもそうだった。あの時は電話に出るような感覚で、アリサ達も当然気付いるものだと思って念話した。
それに頭の中だけでしゃべっているつもりだったが……声に出していたとしたら。
ずれていたピースがかちりとはまった気がした。

「やっと思い出したみたいね」
「思い出したって言うか……あれはユーノ君に言ったことで」
「ユーノ? なんでそこにあのフェレットが出てくるのよ」
「え、あの……ユーノ君のことを思い浮かべてたの!!」
「……それはつまり私の話なんて聞いてなかったってことなのね」
「そうじゃないよ! そうじゃなくて……そ、そうだアリサちゃん、私が映画に誘ったって?」

追いつめられたら話題変更。なのはの常套手段である。
話題が話題だ。アリサは追求のことなどすっかり忘れ、恨みがましい目をとたんに丸くした。

「ど、どうでもいいじゃない。どうせ興味ないんでしょ」
「そんなことない。ねぇ、どんな映画?」
「……ス、スターウォーズのエピソードV」

ぼそりと告げる、映画のタイトル。様々なメディアを通して公開が伝えられている超有名作品だ。
なのはも映画は好きな方なので、当然チェックしておきたいと思っていた。
ますますユーノへの恨みは募る。帰ったらどうやって復讐してやろうか。

「私それ見たかったんだ!」
「……ホント?」
「うん! でも全然チケットとれないし、どうしようかと思ってた」
「……一応、お父さんがこの街の映画館に出資してるから、チケット貰ったんだって。でも見に行く暇がないから、友達と見に行きなさいって私にくれたの」

なのはは心底そんな両親を羨ましく思った。
なのはが両親から貰えるものと言ったら、いつまで経っても色あせないラブラブ光線と”女の子の”服と生死の境をさまようほどの鉄拳制裁だ。
感謝するべきところもたくさんあるが、これらのイメージが強すぎてあまり記憶に残らない。

「チケットは二枚あるから……あんたを誘ったのよ」
「でもすずかちゃんは?」
「なんかこの映画好きじゃないんだって」

言われてすずかの趣味を思い出すと、結構最近に映画を見るのは好きだと聞いた覚えがあった。
スターウォーズはそこまで好き嫌いが別れる映画でもないし、すずかが断る理由なんて無いように思える。
しかし今はアリサとの仲を以下に修復するかこそが重要だ。
アリサを傷付けたままでは、すずかとも関係修復に望みはない。

納得して視線を目の前に戻すと、アリサはなのはのことを正面から見つめていた。
その赤みがかった真摯な顔になのはは一瞬言葉を失い、アリサが先に口を開く。

「……なのは、教室で言ったことはこの際忘れるわ。もう一度聞くから今度はきちんと答えて。
 
 私と、日曜日に……映画行かない?」

今度こそよどみなく聞き取ることが出来たアリサの言葉に、なのははとびきりの笑顔で頷いた。



――――――――――――――――――――――――――――――


おまけ

なのはの部屋にて。

「ただいま」
(おかえり……ってなのは、どうしたのその格好!? ぐちゃぐちゃじゃないか!)
「うん。熱々のコーンポタージュをかけられてね」
(コ、コーンポタージュ?)
「そう。コーンポタージュ」
(よく分からないけど、とにかく早く着替えた方がい……なのは?)
「それでね、私気付いたんだ。ううん、前々から気付いてたけど改めて思ったの」
(……なにを?)
「全ての原因はね。ユーノ君、キミにあるってことだよ」
(……あの、なのは、さん?)
「とりあえず、捻る」

(ちょ、ちょっとなのはなんで持ち上げるのさそして胴体を両手で掴むのさあれこれってもしかして雑巾を絞る時の持ち方かなそうだよねそうだよねどう見てもそうだよねなんで僕をこんな持ち方するのねえ教えて――ッなのは苦しいよ止めてよ本気だよマジだよ背骨が折れる皮が千切れる痛い痛い痛い痛い<b>うぎゃぁあああああああああああ!!!!!!!)</b>

第一話。終。


第二話予告

「どうも、高町なのはです。あれから二つのジュエルシードをユーノ君に脅されたり騙されたりしながら封印するハメになりました。雑巾絞りで殺しておけば良かったと思います。
それはおいときまして、約束の日曜日がやってきました。
上映は午後からなので午前中はお父さんのサッカーチームの試合を見に行きます。
なんか仲のいい二人なんかもいたりして、自然に頬が緩んじゃいました。

それから映画。楽しみだなぁ。

……え? ジュエルシードの反応? それであの狂ったみたいに大きい木?

やだよ。私なにもしないからね、ユーノ君」



Coming soon

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