「よいしょ……っと」

なのはが肩にかけたバッグはそれこそ中に人一人は収められるだろう大きなものだった。それを二つクロスする形でこの部屋まで運んできたわけである。普段から鍛えていなければ肩、腰、足が同時に悲鳴を上げる凶悪な代物だ。
女の子は男の子に比べ荷物が多くなる傾向にあるが、決してなのはが女の子側に属しているわけではない。彼自身の荷物といえば着替えが数着と暇つぶし用に持ってきた何冊かの本だけだ。肩に乗って完全にマスコットと化しているユーノも荷物といえなくもないが取るスペースはゼロに近い。
それならばなぜこんな大量の荷物になっているのかと言えばそれはなのはの親友二人が全ての原因であり、トランプ系のカードゲームはおろかモノポリーや人生ゲームまで持参してきたところを考えると、なのはが持ってきた暇つぶし用の本はお役御免となりそうだった。一泊二日の日程なのにこの重装備は、不審船にアメリカ太平洋艦隊を持ち出すほど戦力過剰に思えるのだが、昨日の電話で別々に「何を持っていけばいいと思う?」とアリサ達に尋ねられたとき、両方に「持っていきたいものを持っていけばいいよ」と答えた自分も悪いと諦める。
問題は重さよりもむしろこれら全ての遊びに付き合わされるだろう今夜のことだ。考えると頭が痛くなる。多分寝かせてはくれないだろう。ただまぁ同時に少し、楽しみでもあるにはある。

「へー、今日はここに泊まるのかぁ」
「いい部屋だね」

なのはの後から部屋に入ってきた二人は部屋にそんな感想を抱いた。
茶の間と寝室が別になっているのでそれなりランクの高い部屋なのは確かだが、市民の憧れの的であるアリサの住んでいる高級マンションと、タクシーの運転手に「月村邸の〜」と基準にされるくらい通じるくらい言わずと知れた大豪邸と比べれば色あせるのではないか。それともどちらも洋風なので、この純和風の部屋作りに意外性を感じているのか。
はしゃぐ友人達を横目に、小市民のなのはは部屋に十分満足しつつ二人の荷物を部屋の隅に置く。

「基本的に夕食までは自由行動って言ってたよね。二人はどうする?」

備え付けのお茶セットを開け急須に茶葉を入れポットからお湯を注ぎながら、

「まずは温泉でしょ。っていうか温泉旅館に来てほかに何するのよ」
「だったらあの大量のゲームは……」
「あれは夜用。温泉→コーヒー牛乳→卓球のコンボは基本中の基本でしょ」
「そ、そういうものなのかな?」
「ま、まぁ分からないでもないけど。はいお茶」
「サンキュ」
「あ、ありがとう。ごめんね、なんかなのはちゃんだけにやらせちゃって」
「ううん、気にしないで」

普段ならすずか専属のメイドが行うお茶請け全般を代行するなのはの姿は実にはまっていた。学校の男子に見せられる格好ではない。すでにメイド服が似合う女の子ランキングとウェイトレス姿が似合う女の子ランキングで一位を取っているというのに、割烹着が似合う女の子ランキングまで列伝に加えられては殺意を押さえる自信がなかった。
そのメイドさんたちはどこにいるかというと別の部屋である。今回の温泉旅行のメンバーは高町家の面々にアリサ・バニングス、加えて月村家一同。かなりの大人数だったために取った部屋はいくつかある。なのは達いつもの三人組は当然のように同じ部屋に割り振られ、ところどころで保護者の監視が入る手はずだ。今回はメイド二人の慰安も兼ねているのでメイドの任を解かれている。

「ノエルさんがなのはちゃんがいるなら安心って言ってたけど、うん、今なら分かる気がする」
「なのはって世話焼き体質だからね〜」
「ほ、褒め言葉と受け取っておくよ」

苦笑いするなのはの前でバリボリと備え付けの煎餅を一枚食べ、お茶を一気に飲み干したアリサは立ち上がった。

「じゃ、二人とも行こ」
「え? 私も?」
「ったり前でしょ。あんたもよ」
「男湯女湯で別れてるんだから一緒に入っても意味がないと思うんだけど」
「あのねぇ、あがったら卓球やるって言ったじゃない」
「あ、そっか」

なのはを除く二人は巨大リュックのジッパーを開け、中から着替えや使い捨てシャンプー・リンス一式をまとめた袋を取り出した。なのはの方は持ってきた荷物自体が非常に少ないため、そのままの形で持っていくことにする。



――――――――――――――――――――――――――――――



今回の温泉旅行には、”二人に隠しておかなければいけないこと”、端的に言えばジュエルシードの暴走が近頃起こらなかったために参加を決めた。それでもなのはにはやることがたくさんあったし、温泉街が町のど真ん中にあるというわけもなく僻地からでは対処が遅れるかもしれないと考え、本当なら仮病でも使って皆だけ出かけさせた後、道場や公園などでレイジングハートとともに編み出した戦闘方法のテストでもしようかと思っていたのだ。
そうしたところで二人も予定をキャンセルし、ありがたいことに一日中看病に張り付いて余計に身動きが取れなくなるという未来予想図画ありありと描けたので泣く泣く却下したが。

「いい湯だね〜……」
(全く……)

しかし実際来てみると、そこはなのはも日本人、頭の上にタオルをのせてよい湯加減である。ユーノも横で至福の一時を過ごしているのだからあるいは温泉には国境どころが世界の違いもないのかもしれない。
カポーンと湯桶の音。それとなく鼻をなでるヒノキの香り。あふれるお湯が立てる水音。
これぞ温泉。

「ん〜極楽極楽……」
(この文化はもっと他の世界も見習うべきだね……)

脱衣所で「ここは男湯だよ」と嗜めた極普通の青年を反射的にぶちのめしてしまい「すみません、この人湯あたりして倒れたみたいです。ええ、この傷は倒れたときにぶつけたみたいです」なんてハプニングもあったりなかったりしたが、温泉につかっているとそういった俗世の雑事も洗い流される。
浴場の視線ほぼ全てを独り占め状態なのもまぁ今の精神状態なら許せる。普段のなのはからすれば驚異的なまでのリラックス状態だった。

「日ごろの疲れも吹き飛ぶよ〜」

とろけそうななのはの表情とは裏腹に湯船はどんどん空いていった。なのはが気持ちよさそうに息を吐き出すたびに、なぜか皆一様に気まずそうな顔をしながら前かがみで股間を隠し脱衣所に退散していく。時間帯からして湯船はさほど混んではいなかったので、ほどなくして浴場はなのはとユーノの貸し切り状態となった。
ますます素晴らしい。他人と話すのが嫌いななのはではないが、やはりこういう場所は一人でいるほうが嗜好にあっている。

「あ〜……」
(う〜……)

両者ともに至福の極み、肩まで使ったなのはの体がそのまま溶けてしまうのではないかといったその時。

『うわ、アリサちゃんやわらか〜い♪』
『んきゃっ!? や、やめてください!』

なんていう、ある意味俗世最大の煩悩が隣の女湯から届いてきて、なのははヒノキの湯船の角に後頭部を強打した。



――――――――――――――――――――――――――――――



アリサたちは脱衣所でなのはの姉・美由希や月村一行と遭遇した。桃子を除いては、この旅行に来た女性陣が集結したことになる。
そして女湯の方は最初から貸しきり状態であった。気心が知れたメンバーだけしかいないとなれば自然に開放感も増してくる。
かくして騒ぎ立てることが好きな美由希は胸を揉みまくるという暴挙に出た。最初は忍、メイドのノエルと来て、そのターゲットはアリサとすずかの二人にまで及んだ。

「まずはすっずかちゃ〜ん♪」
「ひゃぅっ!!」
「おやや、この年にしてもうこれ……こりゃあ将来が期待できそうだね。じゃあ次はアリサちゃん♪」
「ちょ、やめ……あんっ!!!
「ありゃ、こっちは大きさが物足りない、でも感度は良好か……ほーれ、お姉さんが大きくしてあげようね〜」
「うくっ……やめ、こら、ちょっと!」

しばらくやられっ放しだったアリサだが、負けん気の強い性格は彼女に反抗の意思を持たせる。自分より大きな胸というのもなんとなくむかついた。
だが大きいからといってなんだというのだ。第二次世界大戦中、ある航空機部隊の隊長は巨大な敵戦艦に怖気ずく隊員をこう叱咤したという。「大きいから的をはずさんのだ!」。

「べ、別に大きくなくたっていいじゃないですか。大和は大きかったし馬鹿でかい砲塔積んでたけど沈みましたし?」

そう、あの世界最強の”戦艦”大和は空母に、飛行機に敗北したのよ。いや大きさから言えば確かに空母も相当なもんだけど、大事なのは甲板よ。あの平らな飛行甲板はどことなく親近感が沸いたり沸かなかったりするじゃない? 46cm三連砲塔や15.5cm三連砲塔をいくら積んだって飛行機が着艦できる方が強かったんだもん。平らな方が強かったんだもん。

「でも大艦巨砲は男のロマンよね」
「ぐっ……!!」
「あと戦車は大体大きい方が強いよ。ティーガーとか」
「ぐぐっ……!!」

忍のマニアなツッコミにアリサの僅かばかりの自己弁護は潰された。ちなみに2人とも軍オタという訳ではなく、アリサは持ち前の記憶力で、忍はメカ関係の知識として持っているだけである。
口で負けた。こうなれば実力行使に出るしかない。アリサの指をわきわきと動かした。

「えいっ!」
「あっ……っく、やるじゃない、だけど負けないわよ〜♪」
「あの、二人とも、お風呂はもう少し静かに入って……」
「なに言ってんのよすずか、あんたも加勢しなさい!」
「あ、ちょっとアリサち……やん!」

そしてここに忍まで参戦すればメイド2人もなし崩し的に巻き込まれるわけで、女風呂は阿鼻叫喚、もとい天使狂乱の極楽絵図と化した。



――――――――――――――――――――――――――――――



『ぁん……んっ!』
『ふはぁっ……』

艶かしい、艶かしすぎる声が男湯と女湯をつなぐ露天風呂を介して伝わってくる。
ユーノは無論のこと、流石のなのはをしても男の本能が心の中で叫び声をあげていた。

――見たい。

(隊長、私はもう限界であります!!!)
「今回ばかりは気持ちも分かるけど絶対駄目!! 行ったら殺す!!!」

なのははユーノの首根っこを掴み続けていたが、全力を賭して体をよじられ拘束は徐々に緩んでいく。

(ここで死しても我が本懐! いざ突撃をぉおおおおおおおおおおおおお!!!)
「ダメだってばぁああああああああああああああああああああ!!!」

このときのユーノの気迫は地獄の修羅をも怖気づくものだったと後になのはは語る。
そして最早誰だか判別することも出来ないほど混乱した嬌声の一つが一際大きく男湯に響くと、なのはも思わず手にかける力を緩めてしまった。

「あっ!」

そして遂にユーノはなのはの束縛から脱した。そして自由への逃避行、天国への階段を駆け上る。
この浴場は脱衣所があり内湯船があり、開けっ放しでつながったその奥に露天風呂がある。そして露天ともなると男女湯の境界線は2m半程度の柵しかない。となればユーノの行く先は決まっていた。残像すら残す勢いで浴場を駆ける駆ける。

「ちょ、ちょっと待てー!!!」

普段はユーノがなのはに対して吐く台詞も今は立場が逆だ。
すっかり緩みきった体に緊急稼動の指令を出して湯船から飛び出ると全力疾走。床の材質は石を切り出したものでかなり滑りやすく、実際走らないようにという張り紙がされていたが、安全速度などを守っていてはあの暴走する淫獣に追いつくことはできないだろう。
すでに露天に出たユーノを追い、なのはも真昼の日差しを浴びる。突き抜けるような青空に浮かぶ真っ白な雲。一瞬現実を忘れて空を仰ぎながら昼寝でもしてみたい衝動に駆られる。
頭を振った。今ここで淫獣を逃せばどうなるか? 親友や姉や兄の恋人はその裸体をさらすことになるのだ。そして彼の容姿では決して裁かれることなく、仮になのはが鉄槌を下しても彼女達本人は気付かぬ間に汚されることになるのである。
欲望に支配されたユーノが当然として覗きを敢行するならば、理性に支配されたなのはは当然としてその行動を頓挫させなければならない。
ユーノはその小柄を生かして柵の隙間から向こうに抜けていた。ここから先は後戻りのできないラインだが、なのはに躊躇はない。

「はぁっ!!!」

自分の身長をはるかに超える柵を軽々飛び越えると、なのはは水しぶきを上げて女性用露天風呂の中に着地した。スポーツ学者が見たら二、三日正気を失いそうな芸当である。
それでもユーノとの間の距離は未だ開いていた。小柄な白い体は屋内に突入しつつある。
早い、本当に早い。小柄であるがゆえになのはよりも小回りは聞くのだろうが、純粋な速度ではなのはの方が圧倒的に勝っているはずである。その差はただ、ユーノの燃え盛る欲望だけで埋められていた。

あせる。ユーノに追いつくだけならばそう苦労はしない。だが女湯屋内に入られてからでは遅いのである。たとえ数秒、いや0,0000000001秒でも視界に彼女達の痴態が入った瞬間、超音速で上空を飛行しつつ精巧な地上偵察写真を撮る戦略偵察機の如く、ユーノの脳の視覚野は永久にその光景を刻みつけるであろう。
視姦がユーノの記憶だけで行われればそれは許されるのか? 否、否、否、絶対不許可である。
一時たりとも彼女達との視覚的接触をさせるわけにはいかない。

ユーノとの距離を一気に零にするため、脚に全ての意識を集中する。まさかこんな所で父から叩き込まれた修行の成果を発揮することになるとは思わなかったが、事態がここまで切迫すればしかたがない。
力を解き放つ時間は刹那。その力を受け取るのは自身の体のみ。緩慢と束縛なくエネルギーを開放しても100%の効果は得られない。
最短の時間で最大の力を受け止めることよってのみ得られる爆発的な加速。父はこの技をそう説明した。

「シッ――――――――――!」

パァン!!

なのはの体は弾丸となった。足元のお湯が常軌を逸脱した踏み込みで弾けた霧は、まるで銃口から立ち上る硝煙のよう。
早く。
速く。
疾く。
伸ばした先の手がユーノの尻尾を掴む。引き寄せてから体をひねって露天風呂側へ投擲する。なのはも減速が効かない。女湯の湯船に盛大な飛沫を立てて着水する。
ユーノは露天風呂の岩に激突すると対物ライフル弾のようにそれを貫通、木っ端微塵に粉砕した。同時に自らも全身の骨を砕かれ一時的な軟体動物となる。

(なのはぁあああああああああああ!!!)

野望は潰えた。楽園は手の中から零れ落ちた。もはや意識は薄れ、脳は体中からあがる膨大な数の悲鳴に混乱してもはや痛みさえ認識できない。血走った眼だけが楔のように女湯へ向けられる。

ユーノの体は飛び続け、狭い露天風呂の敷地を飛び出た。
山地に作られた温泉旅館。その敷地外はすなわち山地。ユーノは途中に木の幹があろうとも、葉が視界をさえぎろうとも、最後まで女湯の方角を血眼で見つめながら、ゴロゴロと広葉樹が覆う山肌を転がり落ちる。その音もやがて消えた。
残ったのは谷を流れる川のせせらぎ。
淀みない清水に揉まれ、フェレットの成れの果ては緩やかに川を流れていった。

「……っぷはぁ!! はぁ、はぁ、はぁ……」

全力発揮の後お湯に浸かったなのはは酸素を求めて深呼吸を開始した。
なんとかユーノを撃退することに成功したことに深く安心する。さっきのユーノの気迫は明らかに異常で、普段ならば簡単に駆逐できるはずのユーノに不安すら感じていたのだ。
全く人間は欲望を目の前にするととんでもない力を引き出すものだと改めて認識、

むにゅ。

「……」

その感触で絶望的な現実に立ち返る。そう。こうなることなど分かってはいた。ユーノから守ったはいいものの、なのは自身は完全に女湯に侵入しているのだ。
状況はモスクワを目の前にした独軍兵士や大戦末期のガダルカナル島守備兵すら希望に溢れて見えるほど悪いのではないか。

「……なの、」
「は?」

さてこのとぎれとぎれのメッセージの詳細を説明しよう。まず発しているのは呆然とした表情のすずか、アリサの2人であり、言葉を向けられた人物は全裸で二人のシルクのように瑞々しい太ももと太ももの間に、オブラートを取り去ってしまえば股間に両の手を突っ込んでいるなのはである。
なのはの派手な着水によって肩までならば十分漬かれた湯量は半分ほどが溢れ出してしまい、浴槽内段差に腰掛けていた二人は足湯状態になってしまっている。つまりは……これ以上は語るまい。ただこの一言に尽きる。

丸見え。

浴槽に突っ込んだあとは完全に偶然の出来事であるから、運命の女神というのはおそらく困っている人間を更に困らせて腹を抱えて笑うタイプに違いない。会う機会があったら速攻で叩き潰そうと誓う。この場を生き残れたら、の話だが。

「あ、ははは」

もう笑うしかない。なんだ、激戦地の兵士どころじゃない、もう十三階段を上りきった死刑囚より絶望的じゃないか。
女性陣全員の視線が集まっている。現実逃避したくて一人一人視線の元をたどる。
忍さん、お兄ちゃんが選んだだけあって凄いですね。ノエルさんは反則です。あとお姉ちゃん、ファリンさんの胸を揉むのは止めようね。
アリサちゃんとすずかちゃんは……これからこれから。大丈夫だよ。
すずかちゃんはあのお姉さんだし、アリサちゃんはお母さんが凄いし。
……分かってるんだ。そうじゃないよね。現実逃避なんだよこれ。

「なの……え? だって女湯……あれ?」
「え? あれ? えと、あの、え?」

混乱してる。うん。それが普通の反応だと思よね。

「な、なの、な、ななな、な、なな、な」
「………………………………………あは」

アリサちゃん、モールス信号なんてずいぶん古典的なんだね。うーわーすずかちゃんのその笑顔久しぶりに見たよ。この前はたしかバレンタインのときだったよね。二度と見たくなかったのになぁ。
不思議と二人を見てると般若が噴火寸前の富士山バックにたたずんでる映像が見えるのはたぶん私の頭がおかしいんだよね? それとも目かな?

「と、ととととととりあえず、手、どけるね?」

どうしよう。呂律が回らないや。今警察の人にお酒飲んでるか聞かれたらたぶん補導されちゃうな。そっちのほうがよっぽどましだけど。

ぷにっ

「うきゃうっ!?」
「はぁぅっ……!?」

いやいやいやいやいや待って、今の、不可抗力、その、だってずっと触ってたし、離れなきゃって、あの、

「……」
「……」

あ、私こういうときなんて言えばいいのか分かるよ。嵐の前の静けさって言うの。多分中心気圧800hPaの最大瞬間風速80mで降雨量は最大300mm/hだったりする史上最大の台風の前の静けさ。どうせならアメリカのアリゾナ州とかに行って欲しいっていう私の願いは叶えられないんだろうね。モロ射程圏内だし。
っていうかお姉ちゃんそんなニシニシ笑ってないで助けてよ。弟の命の危機なんだk



直後、旅館中に身悶えるような恐ろしい断末魔が響きわたり、やがてそれもぷつりと途絶えた。

inserted by FC2 system